2009年04月08日

すがやみつるのネットライフ(第16回)

すがやみつるのネットライフ(第16回)

■第1章 こんにちはパソコン通信(1985年)

●コンピュサーブモータースポーツ・フォーラムのSysOpが来日

 コンピュサーブ「オートレーシング・フォーラム」でSysOpをつとめるマイク・ホランダーさんが、東京モーターショー取材のために来日したのは1985年11月のことだった。来日前に届いたメールによると「日本のレースも取材してみたい」というではないか。
 そこで、ちょうど鈴鹿サーキットで開催されることになっていたフォーミュラ2のレース「JAF鈴鹿グランプリ」の取材申請を代行し、鈴鹿までの道案内を買って出ることにした。
 都内のホテルまで出迎えに行くと、太ったお腹を突き出して、ちょっと髪が薄くなりかけたマイクさんが、にこやかな顔で待っていた。
 鈴鹿に向かう東海道新幹線「ひかり」号の車中で、レース取材申請に必要な保険の手続きについて説明しようとしたのだが、「保険」を意味する英単語がわからない。
「イフ・レーシングカー・クラッシュ・イントゥー・ユウ。ゼン・イフ・ユウ・ウィル・ビー・キルド。サーキット・ウィル・ペイ・マネー・フォー・ユア・ファミリー」と、実に怪しげなカタカナ・イングリッシュで話すと、しばし考えていたマイクさんは、ぼくが手にしていた英和辞典をもぎ取った。パラパラとページをめくったあと、太い指先で指し示したのは「insurance」という単語。横には「保険」という訳も載っている。「イエス、イエスのオフコース」と返事したのはいうまでもない。

PC-8201と音響カプラー 鈴鹿サーキットでは、マーチ・ホンダというマシンに乗った中嶋悟選手が優勝したのだが、予選から決勝までの模様を、ぼくが持っていったPC-8201を使って、鼻歌混じりでバチバチバチと打ち込みはじめた。最初は、アメリカのアスキー配列のキーボードと、日本のJIS配列のキーボードの違いに戸惑い、「;」「:」「”」「’」などの打ち込みをミスするたびに、「Ouch!」と喚いていたが、その違いにもすぐに慣れ、まさしくマシンガンのように英文を叩き込んでいくようになった。タイピングが速いのも当然だった。マイクさんは海軍勤務時代、掃海艇でタイピストをしていたのだという。
 近くにいる人と会話するため画面から視線をはずしていても、平気でタイプをつづけていく。もちろん完全なブラインドタッチだ。手は大きく、指も太くてゴッツイのに、指さばきは、まさに華麗の一言につきた。
 サーキットのプレスルームにいる記者たちのなかに、ワープロやパソコンを使う人は一人もいなかった。FAXで手書きの原稿を所属する新聞社、通信社の編集部に送っている時代だったから、マイクさんの華麗なタイピングは、記者たちの注目を浴びることになった(※1)。
 マイクさんがリポートを書き終えると、ぼくがプレスルームの黒電話に音響カプラーをセットして、ビーナスPを呼び出す。コンピュサーブに接続したところでマイクさんにタッチ。あとはマイクさんが自分のIDとパスワードでコンピュサーブにログインし、オートレーシング・フォーラムに鈴鹿の速報を送り届けていく。PC-8201内蔵の通信ソフトは、マイクさんも使っていたタンディ100のものと変わらなかったので、コンピュサーブにアクセスした後は、マイクさんも自由自在にPC-8201を操ることができた。
 マイクさんは、広告代理店に勤務しながら、AP通信とも契約し、アメリカ西海岸で開催されるモータースポーツ専門の記者としても働いていた。アメリカではタンディ100を使って記事を書いているというが、本物のオンラインジャーナリストの華麗なリポートぶりを目の当たりにして、ぼくはますますオンライン・ジャーナリズムへの道にのめり込むことになった。
 オンライン・ジャーナリズム――とくに屋外で開催されるスポーツイベントを追いかけることの多い記者たちころが、まさに「元祖モバイラー」だったのだ。
 アメリカでは、携帯パソコンで記事を書き、電話回線経由で原稿を送るのが、とうに当たり前になっていた。ところが日本では、まだFAXが、文明の利器として注目を浴びていた時代でもあった。

注(※1)
 マイクさんが鈴鹿サーキットのプレスルームでPC-8201のキーを叩き、ささっとアメリカにレースレポートを送信する様子を興味深そうに見ていたのが、モータージャーナリストの津々見友彦さん。もともとメカ好きだったこともあってか、あっというまにパソコンを購入し、まもなくニフティサーブにも入会。その後もバリバリとパソコンを使いこなし、いまは試乗レポート執筆のために、音声入力ワープロまで使いこなしているのだとか。この研究熱心さには、いつも脱帽です。

追記
 マイクさんは2008年9月、結腸ガンのために亡くなった

  つづく

Posted by すがやみつる/菅谷充 at 09:10 Comments(0)TrackBack(0)パソコン/ネット

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