2008年09月26日
■『仮面ライダー青春譜』第64回
第7章 『仮面ライダー』騒乱記
●ゴキブリ大作戦?
一九七二年は、「テレビマガジン」一二月創刊号からスタートした『仮面ライダー』と商品の仕事に追われたまま年が暮れることになった。正月明け一番の締切を抱えていたため、年末年始の休みも取れそうになく、帰郷も断念して、仕事に専念することにした。
そんな息子を不憫{ふびん}に思ったのか、大晦日になって突然、母がお節料理を持ってやってきた。予告なしの訪問だったため、こちらは大あわて。寝床は万年布団の状態で、机と布団以外の場所は、積み上げた本や雑誌で畳が見えない状態だったからだ。
母は、そんな状態も予想していたようで、割烹前掛けに掃除道具まで持参でやってきた。
とりあえず大晦日に原稿の催促はなさそうだったので、掃除をする間だけ仕事は中断することにした。掃除の邪魔だといわれ、部屋の外に出たのだが、アパートの廊下は、まだ昼間だというのに暗く静まり返っていた。
十室くらいあった部屋の住人は、全員が学生だった。そのため冬休みの期間になると、みんな帰郷してしまい、どの部屋も留守になっていたのだ。
「きゃっ!」という母の叫び声が聞こえてきたのは、ぼくが部屋の外に出た直後のことだった。
「どうしたの?」とドアを開けると、母が入口の台所の壁を指さしていた。半間のスペースに小さな流しとガスコンロがひとつあるだけの台所で、壁に近い鴨居の部分に四〇ワットの電球がぶらさげてあった。
夜も昼もなく仕事をしているため、この電球は、ほぼ二十四時間、点灯したままだった。
その電球の光がまばゆくて、気づいていなかったのだが、電球の向こうの壁に、何やら黒い影のようなものが見えた。電球をどけてみてビックリ! そこにいたのは、なんと、チャバネゴキブリの集団だったのだ。
アパートの住人は、ぼくひとりだけになっていた。年末の寒い季節だというのに、他の部屋は暖房も入っていないはずだ。そこでアパート中のチャバネゴキブリが、ぼくの部屋にやってきて、台所の隅で二十四時間点灯している電球の近くの壁で、暖をとっていたものらしい。古いアパートだったせいで、柱と壁の間に隙間が開いていたが、そこにもチャバネゴキブリは詰まっていた。
「薬局に行って殺虫剤を買ってきなさい」
母に命令されて近くの商店街に行き、眠気覚ましのアンプルでお世話になっていた薬局に行くと、真冬だったがスプレー式の殺虫剤が売られていた。
すぐにアパートにもどって殺虫剤を噴霧すると、壁からボロボロとチャバネゴキブリが落ちてきた。
壁と柱の隙間にも噴霧すると、その隙間から、ゾロゾロゾロゾロとゴキブリが湧き出し、台所と反対側の畳の上にボトボトと落ちた。
数十匹なんてものではない。母はホウキとチリトリでチャバネゴキブリを集めたが、プラスチックのチリトリに山盛りで三杯ちかくもいた。たぶん数百匹はいたのではなかろうか。
しかし、こんなにたくさんのゴキブリと同居していたなんて、まるで気づいていなかった。部屋のことになんて、かまっていられなかったせいでもあるが、われながら実にあきれた話である。もちろん母にも、不潔すぎると説教された。
後年、『ゲームセンターあらし』で描いた「ゴキブリ大戦争」の巻は、このときの体験がベースになったものだ。どんなものでもネタにする。転んでもタダでは起きないのがマンガ家なのだ。エヘン!(いばるほどのことではありませんが……)
つづく
●ゴキブリ大作戦?
一九七二年は、「テレビマガジン」一二月創刊号からスタートした『仮面ライダー』と商品の仕事に追われたまま年が暮れることになった。正月明け一番の締切を抱えていたため、年末年始の休みも取れそうになく、帰郷も断念して、仕事に専念することにした。
そんな息子を不憫{ふびん}に思ったのか、大晦日になって突然、母がお節料理を持ってやってきた。予告なしの訪問だったため、こちらは大あわて。寝床は万年布団の状態で、机と布団以外の場所は、積み上げた本や雑誌で畳が見えない状態だったからだ。
母は、そんな状態も予想していたようで、割烹前掛けに掃除道具まで持参でやってきた。
とりあえず大晦日に原稿の催促はなさそうだったので、掃除をする間だけ仕事は中断することにした。掃除の邪魔だといわれ、部屋の外に出たのだが、アパートの廊下は、まだ昼間だというのに暗く静まり返っていた。
十室くらいあった部屋の住人は、全員が学生だった。そのため冬休みの期間になると、みんな帰郷してしまい、どの部屋も留守になっていたのだ。
「きゃっ!」という母の叫び声が聞こえてきたのは、ぼくが部屋の外に出た直後のことだった。
「どうしたの?」とドアを開けると、母が入口の台所の壁を指さしていた。半間のスペースに小さな流しとガスコンロがひとつあるだけの台所で、壁に近い鴨居の部分に四〇ワットの電球がぶらさげてあった。
夜も昼もなく仕事をしているため、この電球は、ほぼ二十四時間、点灯したままだった。
その電球の光がまばゆくて、気づいていなかったのだが、電球の向こうの壁に、何やら黒い影のようなものが見えた。電球をどけてみてビックリ! そこにいたのは、なんと、チャバネゴキブリの集団だったのだ。
アパートの住人は、ぼくひとりだけになっていた。年末の寒い季節だというのに、他の部屋は暖房も入っていないはずだ。そこでアパート中のチャバネゴキブリが、ぼくの部屋にやってきて、台所の隅で二十四時間点灯している電球の近くの壁で、暖をとっていたものらしい。古いアパートだったせいで、柱と壁の間に隙間が開いていたが、そこにもチャバネゴキブリは詰まっていた。
「薬局に行って殺虫剤を買ってきなさい」
母に命令されて近くの商店街に行き、眠気覚ましのアンプルでお世話になっていた薬局に行くと、真冬だったがスプレー式の殺虫剤が売られていた。
すぐにアパートにもどって殺虫剤を噴霧すると、壁からボロボロとチャバネゴキブリが落ちてきた。
壁と柱の隙間にも噴霧すると、その隙間から、ゾロゾロゾロゾロとゴキブリが湧き出し、台所と反対側の畳の上にボトボトと落ちた。
数十匹なんてものではない。母はホウキとチリトリでチャバネゴキブリを集めたが、プラスチックのチリトリに山盛りで三杯ちかくもいた。たぶん数百匹はいたのではなかろうか。
しかし、こんなにたくさんのゴキブリと同居していたなんて、まるで気づいていなかった。部屋のことになんて、かまっていられなかったせいでもあるが、われながら実にあきれた話である。もちろん母にも、不潔すぎると説教された。
後年、『ゲームセンターあらし』で描いた「ゴキブリ大戦争」の巻は、このときの体験がベースになったものだ。どんなものでもネタにする。転んでもタダでは起きないのがマンガ家なのだ。エヘン!(いばるほどのことではありませんが……)つづく
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